新刊共著『日本映画の誕生』(森話社)発売


渡邉大輔です。これから年末にかけていくつか仕事やイベント出演が立て続けに出る予定なのですが(これから1週間ごとに締め切りがあり、正直、死んでいます…)、その中のひとつです。
8月に出た『floating view』(トポフィル)以来、およそ2ヵ月ぶり、商業媒体でなら、年始に出た品川亮さんらの『ゼロ年代プラスの映画』(河出書房新社)以来10ヵ月ぶりの新刊(共著)が刊行されました。
ぼくにとって、ようやく7冊目となる共著ですが、今度の本はこれまでの著作よりもひときわ感慨深いものです。というのも、今回は、いうなれば今までのように「評論家」としてではなく、いわば「映画研究者」として参加した、はじめての「学術書」(専門書)だからです。日本映画史の専門的研究を本格的に開始してまだ数年のペーペーの研究者ですが、こういう書物としてそのとりあえずの成果のひとつがまとめられたことは大変ありがたいことだと思っています。
また、ぼくの批評の読者の方には、これまで『映像学』や『映画学』など、一般の書店などでは手に入らない学術誌や紀要などでしか読むことのできなかった映画研究方面の仕事を、はじめて読んでいただけるようになって、面映ゆい半面うれしく思います。
本書は、ぼくの大学での恩師である日本の映画研究の泰斗・岩本憲児先生が2004年から森話社で刊行している、日本映画史研究の叢書シリーズ<日本映画史叢書>の中の一巻で、その最終巻(第15巻)となります。現代における日本映画史関係の叢書といえば、かつて80年代に岩波書店から刊行されていた<講座日本映画>が有名ですが、現在では、同じ岩波から四方田犬彦先生らの『日本映画は生きている』など、数種のシリーズが刊行され、評論やジャーナリズムに限らない日本の映画文化を活性化させていきました。中でも、この<日本映画史叢書>は、岩本先生を筆頭に、現代日本の第一線の映画研究者の方々が多数寄稿されているきわめて良質の研究書です。ぼくは今回、日本映画の草創期をテーマにした論集に、60枚ほどの研究論文を執筆しました。

・論文「初期映画に見る見世物性と近代性――「相撲活動写真」と明治期日本」(岩本憲児編『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』、森話社

日本映画の誕生 (日本映画史叢書)

日本映画の誕生 (日本映画史叢書)

ちなみに、この論考は、2009年から岩本先生を研究代表者として、ぼくも分担研究メンバーで参加していた早稲田大学坪内博士記念演劇博物館を拠点とする文部科学省の推進研究事業の一環であるテーマ研究「日本映画、その史的社会的諸相の研究」の成果のひとつでもあります。⇒早稲田大学演劇博物館 演劇映像学連携研究拠点 | Collaborative Research Center for Theatre and Film Arts
この論考は、およそ明治30年代(1900年代)、日本に映画が渡来して直後から登場し、広く大衆の人気を獲得していた「大相撲の実写」(相撲活動写真)と呼ばれる大相撲の取り組みの様子を撮影し、興行した映画フィルム(活動写真)がもたらした文化的かつ政治的効果を、当時の近代国民国家として体系化を遂げつつあった日本の身体文化などとの関連から考察した論文です。
ちなみに、問題の相撲活動写真はこちら。You Tubeでこれも見られるとは、まさに映像圏ですが。⇒
今回の論文の執筆にあたっては、大学(日本大学)の古賀太先生、田島良一先生をはじめ、テーマ研究の研究報告会などでご一緒した大久保遼さん、松本夏樹先生、上田学さん、成田雄太さん、小林貞弘先生、大傍正規さんには、たいへんにお世話になりました。とりわけ大久保さんや上田さん、成田さん、大傍さんなど、ほぼ同世代の若手研究者の方々には、新米研究者としていろいろな面で大きな刺激を受けました。感謝しています。
そして、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、この論文の主題は、早稲田文学で連載している「イメージの進行形」という映像文化論の第四回「からだが/で観る映像史」の内容と一部が重なっています。興味のある方は、ぜひ評論と学術論文、両方を参照していただき、ぼくの問題意識の違いなどを読み比べていただければうれしいです(そんな奇特な方がいらっしゃればw)。
下に、本書の目次を挙げておきます。どれも出色の力作論文ばかり。この本で現在の日本映画史研究がさらに充実したものになることは、間違いないでしょう。

目次
[Ⅰ 映画渡来前後]
1 岩本憲児  映画の渡来――エジソン映画と日本
2 古賀太   メリエスはいつから日本で知られていたのか――日本におけるメリエス事始
3 大久保遼  写し絵から映画へ――映像と語りの系譜
4 松本夏樹  映画渡来前後の家庭用映像機器――幻燈・アニメーション・玩具映画
[Ⅱ 興行と観客]
5 入江良郎  日本映画の初公開――明治三二年の興行と上映番組
6 碓井みちこ 駒田好洋の遺した資料
7 上田学   映画館の<誕生>――電気館における興行と観客の受容
8 渡邉大輔  初期映画に見る見世物性と近代性――「相撲活動写真」と明治期日本
9 田島良一  興行師の時代と小林喜三郎
[Ⅲ 弁士・音・色彩]
10 成田雄太  日本映画と声色弁士――活動弁士を通した日本映画史再考の試み
11 小林貞弘  名古屋で展開した弁士に関する言説
12 大傍正規  無声映画と蓄音機の音――歌舞音楽と革新的潮流
13 板倉史明  黎明期から無声映画期における色彩の役割――彩色・染色・調色
[付]関連年表    藤田純一